おうちのネトフリ女子

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「メイドの手帳」逃げ出せない母親業

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気づけば周りにはシングルマザーがたくさんいる。そのほとんどが夫からの援助はない。子供の誕生日もクリスマスも何も届くことはない。煙のように消えて、どうしてそんなにあっさりなかったことにできるのか。日本にも海外にもシングルで子育てをする人を助ける制度がある。でもそれが人生全てに寄り添ってくれるわけではない。無理難題を押し付けられる時もある。

子供が小さい内は、しょっちゅう体調を崩す。仕事中、熱が出たと報告が入れば仕事を投げ出して駆けつけなければいけない。そういう時、子供がいない人ならまだしも、子供をずっと育てていたはずの年上の女性にも嫌味を言われる。子供を産むまでに誰にも文句を言われないような役職にたどり着けている人がどれくらいいるだろう。子供に寄り添うため、保育園近くの職場、突然の用事に休める会社を選ばなければいけない。有給休暇がないような会社でも、働かせてもらえてることに感謝すらしなければいけない。

夫からの精神的DVを受けていたアレックスはある夜、幼い娘を抱いて夫が寝る横をすり抜けて家を飛び出した。頼る当てもなく、肝心の政府の支援を受けるにも長い順番待ちや制約だらけの始末。車が彼女たちの家で、娘は1ドルの人形を抱いて眠っている。

挙句、夫には子供を連れ去られたと裁判を持ちかけられる。

お金もない、仕事もない、家もない、子供を養育する資格もない。

しかし何よりの最初の問題は、アレックスがDVを受けていると認識していなかったこと。身の危険は感じつつも、アレックスは身体的に怪我を負わされたりはしていなかった。殴られて1週間消えないアザでもできれば気づけたかもしれない。夫は娘のことも(一応)可愛がっている。だから世の殴られ髪を掴まれているであろう女性たちよりは、自分はマシだとすら思っていたのだ。DV被害者だということにやっと気づいたアレックスは娘と共に、DV女性の駆け込み寺のシェルターに入居する。

この「精神的な虐待者」にとても世の中が厳しいことも、シングルマザーの闇として描かれている。

 

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DV被害者はまた元の生活に戻ることが多いらしい。それも何度も。家とシェルターを出たり入ったり。その途中で目が覚める人もいれば、諦めて身を任せてしまう人も。あんなに娘と二人生きるため奮闘していたアレックスも、元いた生活に戻り、酒に酔った夫に暴言を吐かれても眉ひとつ動かなさなくなる。無気力人間になってしまい、ソファーに一日中寝転がり深く深く沈んでいく。「メイドの手帳」は時々ミュージカルのようなユニークな表現がされる。ソファーに本当に吸収されてしまうのだ。光も声も届かない穴蔵の住人になってしまう。

私の友達たちもそうだった。

何度別れろと言われても、そうしなかった。もちろん子供を一人で育てるのは誰だって怖いだろう。でも自分はこんなものだ、だってずっとうまくいかないし・・・というゾーンに入ってしまっているようにも見えた。彼女たちも休みの日はソファーに食べられていたのかもしれない。

 

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アレックスは妊娠をしていなかったら、大学に入るはずだった。生活に終われるようになったアレックスはノートを開いても何も書くことができない。でもメイドとして色んな家庭のトイレや鍋を磨き、「文字は読める?」なんて屈辱的なことを言われながらも歯を食いしばる生活をがむしゃらに続けていると、急にペンが進んだのである。書くことが見つかったように。

豪邸を掃除しながら、こんなところに住めたらどんな気持ちだろうとアレックスは夢想する。カシミヤのカーディガンに袖を通し、高級そうなワインを飲む。夢にまで出てきそうな可愛い完璧な子供部屋。自分たちの家はカビが侵食して、とても人が住めるような状態じゃない。それでも娘と二人で幸せに暮らせるなら、小さな家でいいとアレックスは願う。

子供と生きることを選んだ親は、どんなことがあっても子供が救いであってほしい。そんな願いが酷なほど、逃げ出したい現実ばかりが待っている。切り詰める生活に右も左もなくなり、人に情けないお願いをする時もある。アレックスはそんな、今まで言ったことのない図々しいお願いが自分の口から出たことに驚き、必死に自分を宥める。

育児や仕事に疲れて漫画喫茶にちょくちょく逃げ込んでいた友達も、有給休暇もくれない会社相手に、家族手当の直談判をしていた。

 

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数々の困難を乗り越えて手にした最低賃金のメイドをしながら、自分の夢であった書く仕事に就くため、子供を抱えながら大学に入学するというストーリーは見る人に希望と勇気を与えてくれる。

今作はNetflixのリミテッドシリーズの中で、歴代最もビューポイントが高い。

アメリカ社会の現実を、実話をもとにしたこの作品が歯痒くなるほど丁寧に描いている。

子供を純粋に愛しているアレックスの愛だけが唯一の救いであり、貧困の殺伐とした中できらりと光る安心材料になっている。